
言っていることと、やっていることが合っているか
「お客様第一」「地域とともに」「社員を大切に」。住宅会社さんの理念には、たいていこうした言葉が掲げられています。問題は、その言葉が本当かどうかではなく、現場が言葉に追いついているかどうかです。今日は、私自身が理念と現実のずれで潰れかけた話を書いてみます。
決めたことを、自分で守れていなかった
会社を作って三年目のころ、私は毎日「会社を辞めたい」と思っていました。
会社を作るときに、人を大切にする会社にしよう、と決めていたんです。がんばった分はちゃんと返したい。誕生日にはケーキを買ってお祝いしたい。自分が働きたいと思える会社にしたい。本気で考えて、制度のようなものも作りました。
ですが、現実が追いつきませんでした。
仕事はありました。ただ、単価が安かった。実績のない会社だったので、安くてもいいから受けて実績を作ろう、というやり方で始めていたからです。経費を払ってスタッフに給料を払うと、残りはゼロ。私の給料が出ない月もありました。
人を大切にすると決めた手前、無理な残業はさせたくない。だからあふれた分は夜に自分で片づける。それでも、給料は上げられないし、賞与も出せない。
言っていることと、やっていることが合っていない。あの時期にいちばんしんどかったのは、資金繰りそのものよりも、この状態でした。
理念は、掲げた瞬間から現場に採点される
ここが、住宅会社さんにもそのまま当てはまるところだと思っています。
理念やスローガンは、掲げた瞬間から社内に一つの基準が生まれます。そして社員の方は、その基準で会社を毎日採点しています。
「お客様第一」と掲げている会社で、無理な工期を現場に押し込めば、その一行は嘘になります。「社員を大切に」と書いてある会社で、繁忙期に誰も休めなければ、社員の方はその言葉を二度と信じません。
やっかいなのは、掲げていない会社より、掲げて守れていない会社のほうがダメージが大きいことです。何も言っていなければ減点はされませんが、言ってしまえば基準ができる。ブランディングで理念を言語化するとき、私がいちばん慎重になるのはここです。
だから、理念をつくるお手伝いをするときは、きれいな言葉を並べるより先に、「これ、今の現場で守れますか」を必ず確認します。守れない言葉は、外向けには効いても、内側を確実に削ります。
「経営者、辞めた方がいいんじゃないですか?」
その三年目に、私より年上のデザイナーが入社してきました。一人でしっかり稼げる、実力のある人です。その人が、しばらく経ってからこう言いました。
「経営者、辞めた方がいいんじゃないですか?」
何も言い返せませんでした。腹は立ちましたが、出す資格がなかったんです。私自身が、同じことを毎日思っていたからです。
人から言われていちばん響く言葉は、知らなかったことではありません。うすうす自分でも分かっていたことを、外から言われたときです。知らないことを言われても「へえ」で終わります。腹が立つのは、図星だからです。
それ以来、かちんときたときは、その場では返さずに持ち帰るようにしています。自分の中に同じ考えがなかったかを問い直す。あれば、それはたぶん当たっている。
お施主様アンケートや口コミも、同じ見方ができると思っています。読んでいて胸がざわっとする一件は、たいてい社内でも誰かが前から言っていることです。逆に、読んで何も出てこない指摘は、単に見ているものが違うだけなので、そこまで気にしなくていい。
棟数を伸ばして、人が抜けた
その後の話も書いておきます。
あの一言で火がついた私は、そこから人を増やして売上を伸ばしました。四年目になる前に、スタッフは十人を超えました。
ですが五年目に、スタッフが次々と辞めていきました。原因は、無理に会社を成長させたツケです。仕事が増えて、みんな残業しないと回らない。私も忙しくてサポートできず、話す時間も取れない。それでみんな疲れてしまいました。
これは、住宅会社さんが棟数を伸ばした翌年に起きることと、構造がよく似ていると思います。受注が増える、現場が詰まる、フォローが薄くなる、社員が抜ける、対応が落ちる、お客様の評価が下がる。数字が伸びている最中は、人が疲れていることが見えません。
悔しさも危機感も、燃料としてはかなり強い。ただ、燃料はどちらへ走るかまでは決めてくれません。どこへ向かうかは、頭が冷えているときに決めておく必要があります。私はそれを、五年目にけっこう痛い形で教わりました。
耳の痛いことを言ってくれる人は、貴重です
耳の痛いことを言ってくれる人は、そんなに多くありません。言えば関係が気まずくなるので、たいていの人は黙っているほうを選びます。
ですから、社内にそういう方がいるなら、それはかなり貴重なことだと思います。その場では腹が立ちますけどね。
私が住宅会社さんとの打ち合わせでたまに言いにくいことを申し上げるのも、たぶんここが原点です。ご要望のとおりに作ることはできます。ですが、それでは伝わらないと思ったときには、そう申し上げます。あのとき、言われた側にいたので。
もし今、社内やアンケートで言われた言葉が引っかかっているなら。褒めていただいた言葉より、腹が立った言葉のほうを、もう一度読み返してみてもいいかもしれません。その中に、次のヒントが入っていることがあります。



