
売れているのに、手元にお金がない
受注は取れている。棟数も前年を超えている。それなのに、資金繰りが苦しい。住宅会社さんとお話ししていると、この話はよく出てきます。今日は、私自身が二十代のときに同じ状態を経験して、売れているのに事業をたたんだ、という話を書いてみます。
売れるほど、怖くなっていった
私は独立を三回していて、そのうち二回は続けられずにやめています。
一回目は二十三歳のとき、犬のセレクトショップを開きました。開店初日に来店されたのは、想像していた十分の一にも満たない人数でした。血の気が引く、というのは本当にあるんだな、と思いました。初日から資金の心配が始まりました。
そこからネットショップを始めて、これがわりとうまくいきました。楽天市場にも出して、売れるようになっていったんです。
ここまでなら、逆転した話に聞こえると思います。ですが私は、そこでやめています。
売れるほど、怖くなっていったからです。
「売上が立つ」と「手元にお金がある」は、別の話
売れるということは、仕入れも増えるということです。在庫が増えます。多いときで、一千万円ぶんくらいの在庫を抱えていました。
そのうえ、カードで買っていただいた分の入金は、売上が立ってから遅れて入ってきます。売れているのに、手元のお金は先に出ていく。
動かすお金の額が大きくなるほど、もう後戻りできないな、という感じがしてくるんです。その不安に押しつぶされそうになって、事業を人に譲りました。
あのとき体で分かったのは、売上が立っていることと、手元にお金があることは、まったく別の話だということでした。数字の上では黒字なのに支払いができない状態がある。これは、一度やっていないと本当には分からなかったと思います。
住宅会社でも、構造は同じです
この構造は、住宅会社さんでもそのまま起きます。
契約は取れている。着工も進んでいる。ですが、入るお金には順番があります。契約金、着工金、上棟金、完成引き渡し。一方で出ていくお金は、材料も職人さんへの支払いも、待ってくれません。土地から仕入れる場合は、さらに先に大きく出ていきます。
棟数が伸びているときほど、この差は開きます。受注が増えるということは、先に出ていくお金が増えるということだからです。忙しくて、業績も伸びているのに、通帳を見ると胃が痛い。これは、経営者の能力の問題ではなく、事業の構造としてそうなっています。
ですから、目標を棟数や売上だけで置くのは、少し危ないと思っています。増える方向の判断ばかりを積み重ねると、この差が広がる方向に進んでしまうので。
もう一つの失敗。届けるところまでが仕事だった
二回目の独立は二十九歳のとき、ホームページを作る仕事を家で始めました。
私にはコネもツテもなかったので、とりあえず案内を送って、待っていました。良いものを作れるようになれば、そのうち声がかかるはずだ、と思っていたんです。
連絡は来ませんでした。待てど暮らせど、一件も。三か月で辞めました。
そのときに分かったのは、そもそも存在を知られていなければ、良いも悪いもないということです。知らないものは、選びようがない。届けるところまでが仕事なんだ、というのを、誰からも連絡が来ないという形で教わりました。
これは、住宅会社さんの販促でもよく起きています。良い家を建てている。施工も丁寧で、お客様の満足度も高い。ですが、その良さが地域に知られていない。だから、知られている会社と比べられて、価格で判断される。
品質を上げれば、いつか気づいてもらえるはずだ、というのは、私も本気で信じていました。ですが、そうはならなかった。知ってもらう努力は、品質を上げる努力とは別に必要でした。
やめた経験は、準備になっていた
三十二歳のとき、私はもう一度独立して、今度は会社にしました。二度と逃げられない状況に自分を置こうと思ったからです。
いま振り返ると、一回目で資金の怖さを、二回目で届けることの必要性を知りました。この二つを知らないまま三回目を始めていたら、たぶん同じところでつまずいていたと思います。当時はただの失敗でしたが、いまから見ると準備でした。
もし今、業績は悪くないのに資金繰りが苦しいと感じている会社さんがあれば。それは経営が下手なのではなく、事業がそういう構造だからです。まずは、入りと出の順番を紙に書いてみるところからでも、見え方が変わると思います。



