
初めての仕事を、年に二、三件受ける
お店をやっていると、同じ週に、性格の違う仕事が並ぶことがあります。いつもどおりの仕事と、やったことのない仕事。どちらも受けたいけれど、手が足りない。そういうとき、たいてい、いつもどおりのほうが残ります。
いつもどおりの仕事が、悪いのではなくて
いつもどおりの仕事は、段取りが決まっています。どこで時間がかかるかも分かっている。見積もりも外しません。店を続けていくうえで、こういう仕事は要ります。全部が初めての仕事だったら、たぶん体がもちません。
気をつけたいのは、二つ並んだときに、毎回そちらを取ってしまうほうです。そのときに見ているのは、今週の自分の都合です。今、手が空いているか。今月、数字が足りているか。決め手が全部、手前にあります。終わったあとに何が残るかは、考えないまま決まっていきます。
値段でしか比べられなくなる道すじ
これを一年続けると、できることが去年と同じになります。仕事はしていて、売上も立っている。なのに、人に見せられるものが増えていない。そうなると、次に来る相談も同じ種類のものになります。同じ種類ばかりだと、お客様から見て、比べるところが値段しか残らなくなります。
何年もかけて進むので、途中では気づきにくいです。見えるとしたら、相談の入り方のほうだと思います。最初に金額を聞かれることが増えた。相見積もりです、と先に言われるようになった。そのあたりが出てきたら、何年か前の選び方が、今の入り方に出てきているのかなと思います。
クリーニング店で考えてみる
ここからは作例です。クリーニング店に、いつもどおりのワイシャツの仕上げと、しまってあった着物を洗って着られるように直したい、という相談が並んだとします。
あとのほうは手間がかかって、金額は小さい。今週の都合で決めるなら、答えはもう出ています。
それでも、着物のほうを受けると、店に二つのことが残ります。そこで覚えた直し方と、持ち主への聞き方です。どちらも、ワイシャツを何枚仕上げても手に入らないものです。聞き方が変われば、次の年の受け方も変わることがあります。
三つの角度で見分ける
楽しそうかどうかを気分で決めると、たぶん失敗します。今日は機嫌がよかったから楽しそうに見えた、では、来週の自分が困ります。来た相談を、三つの角度で考えてみてください。
やったことのない工程が、ひとつ入っているか。全部が初めてでなくていいんです。ひとつでいい。そういうものがひとつ入っていれば、終わったときに、できることがひとつ増えています。
終わったあと、人に話したくなるか。実績になるかどうかの話です。話せない仕事は残りません。一年に二つか三つあるだけで、外からの見え方は変わっていきます。
喜ぶ人の顔が、浮かぶか。浮かばないときは、だいたい、その相談で金額の話しか出ていません。誰が受け取るのかが見えていない仕事は、途中で迷ったときに、何を基準に直せばいいか分からなくなります。
三つとも当てはまったら、取る。当てはまるのがあってもひとつなら、それは前にやったことがある仕事のほうです。取ってもいいのですが、店を回すための仕事だと分かったうえで取る。いちばん多いのは、ひとつかふたつ当てはまるものです。そこが考えどころになります。
年に二、三件でいい
全部をそういう仕事で埋めようとすると、たぶん続きません。十件受けるうちの二、三件に、やったことのない工程がひとつ入っている。それくらいでも、一年たつと、できることは増えていきます。
楽しそうでも、受けないと決めることはあります。やったことのない工程を入れるには、失敗する時間が要ります。はじめてやることは、たいてい一回では決まりません。それが取れない納期なら、楽しそうだったものが、ただしんどいだけの仕事に変わります。
この三か月で受けた仕事の中から、三つとも当てはまった仕事と、あってもひとつだった仕事を、ひとつずつ思い出してみる。二つ並べてみると、店がどっちを多く取ってきたかは、だいたい分かると思います。



