
「うちは小さいから」という言葉
「うちは小さい会社なので」。住宅会社さんとの打ち合わせで、いちばんよく出てくる言葉かもしれません。棟数が少ない、人が足りない、大手のような広告は打てない。どれも事実です。ですが、それが弱みかどうかは、実はまだ決まっていません。今日は、光の当て方の話を書いてみます。
光と影は、そのものの性質ではありません
私は「光と影」という言葉が好きなのですが、理由は、この二つが、そのものが持っている性質ではないからです。
ここにコップが一つあるとします。光が当たっている面と、影になっている面があります。ですが、コップ自体に光の部分と影の部分があるわけではありません。光がどこから当たっているか、それだけで決まっています。
照明の位置を反対側に持っていけば、さっきまで影だったところが光になります。コップは何も変わっていません。変わったのは、こちらの立ち位置と、光の向きだけです。
住宅会社さんの「弱み」も、かなりの部分がこれだと思っています。
棟数が少ない、人が少ない、時間がかかる
ブランディングのお手伝いで「御社の強みは何ですか」と伺うと、たいてい出てきません。しばらく考えて、うちは特に何もないんですよね、と言われます。
ところが、困っていることは何ですか、と伺うと、すぐに出てきます。人が少ない、時間がかかる、値段が高い、宣伝が下手。次から次に出てきます。
ですから私は、そちらのほうを聞いていきます。
人が少ないというのは、裏を返すと、着工から引き渡しまで担当が代わらない、ということかもしれません。大手では、営業・設計・工務・アフターがそれぞれ別の方になります。窓口が代わるたびに、お施主様は同じ話をもう一度することになる。担当が代わらないというのは、それが起きないということです。
時間がかかるというのは、途中で確認する回数が多い、ということかもしれません。決めごとが多い家づくりで、確認の回数が多いのは、本来は安心材料です。
値段が高いというのは、そこに何かをかけている、ということかもしれません。材料なのか、手間なのか、工期なのか。かけている先が言葉になっていないだけで、無いわけではありません。
棟数が少ないというのは、一棟あたりに使える時間が長い、ということでもあります。年間三百棟の会社と同じ密度で打ち合わせをすることは、構造的にできません。
もちろん、全部が価値になるわけではありません。ですが、少なくともそこには理由があります。理由があるものは、誰かにとって意味を持つ可能性がある。強みを探すより、困りごとの理由を聞いていくほうが、結果的にその会社らしいものが出てくることが多いです。
ただし、無理に反転させると嘘になります
ここは正直に書いておきます。
捉え方次第だ、考え方を変えれば全部プラスになる。そういう言い方をされることがありますが、これは少し乱暴だと思っています。無理に反転させると、嘘になるからです。
たとえば、工期が延びがちなことを「丁寧に作っています」と言い換えたとします。言葉の上では成立しますが、お施主様が困っている事実は変わっていません。仮住まいの家賃も、引っ越しの予定も、実際に動いています。それは光の向きを変えたのではなく、影を隠しただけです。
そして、この手の言い換えは、住宅の場合いちばん危ない場所で表に出ます。引き渡し後です。契約前に聞いた説明と、実際に起きたことが違えば、その一件は口コミとして残ります。
違いは、たぶんここにあります。その影が、お施主様にとっての価値になっているかどうか。
担当が代わらないことは、お施主様にとって価値になります。工期が読めないことは、なりません。前者は伝えるべきことで、後者は直すべきことです。この二つを同じ袋に入れて、どちらも言い換えでしのごうとすると、ブランディングは効かなくなります。
実績がないという事実は、変わりませんでした
私自身の話も書いておきます。
会社を作ってしばらくのころ、制作実績がほとんどありませんでした。ホームページ制作会社なのに、見せられるものが数点しかない。実績のない会社に頼む方はいませんよね。はっきりと弱みでした。
そこで考えたのは、実績で信頼していただくのは無理だから、別のところで信頼していただくしかない、ということでした。それで、自分の経歴をホームページに載せました。二十三歳で店を開いてうまくいかず、ネットショップで盛り返して、それでも怖くなってやめて、また独立して三か月でやめて。あまりかっこよくない話を全部書きました。
載せてみたら、それを読んで問い合わせをくださる方が出てきました。しかも、単価を上げてもきちんと受注できるようになりました。
大事なのは、実績がないという事実は、何も変わっていないということです。消したわけでも、盛ったわけでもない。当てる光を、実績から経歴に変えただけです。
棟数の少ない会社が、大手と同じ土俵で棟数を語ろうとすると、必ず負けます。ですが、語る場所を変えれば、同じ事実が別の意味を持ちます。
自社の影は、自社からいちばん見えません
最後に、いちばん厄介なところを。
自分の影は、自分からいちばん見えにくいんです。なぜかというと、自分は光の側に立っているからです。自分から見ると、自分にはずっと光が当たっている。影ができているのは、いつも向こう側です。
ですから、自社の「うちは小さいので」が、お施主様にとって価値になっているかどうかは、社内では分かりません。
いちばん早いのは、実際に建てられたお施主様に聞くことだと思います。なぜうちを選んでくださったのか。何が決め手だったのか。たいてい、社内で強みだと思っていたところとは違うことをおっしゃいます。
そして、影を全部消そうとしないことです。写真でも、影を全部消すと平べったくなります。奥行きがなくなって、かたちが分からなくなる。会社紹介も同じで、良いところだけを並べたパンフレットは、どこの会社の話か分からなくなります。
「うちは小さい会社なので」。この言葉のあとに続く一文を、まだ書いていないだけかもしれません。



