
棟数の先にある、一日を決める
経営計画書に、今期の棟数と売上は書いてある。けれど「それが達成できた日、会社はどうなっているのか」までは書いていない。住宅会社さんとお話ししていて、いちばんよく出会う状態です。今日は、目標の置き方を少し変えるだけで、日々の判断と社内の伝わり方が変わる、という話を書いてみます。
最初に出てくるのは、たいてい棟数と売上
ブランディングのお手伝いで最初の打ち合わせをするとき、私たちは必ず目標をうかがいます。これからどこに向かいたいですか、と。
すると、たいてい最初に数字が出てきます。年間◯棟にしたい。売上を今の倍にしたい。反響を月に何件にしたい。これはほとんどの会社さんがそうです。
悪いことではまったくなく、むしろ、そこがはっきり言えるのは強いことだと思っています。数字がないと、進んでいるのか止まっているのかも分かりませんから。
ただ、そこからもう一つ質問をします。「その数字が達成できたら、何が変わるんですか」。
少し間があいて、そのあとに本題が出てくる
この質問をすると、少し間があくことが多いんです。そして、そのあとに出てくる話が、たいてい本題になります。
設計をもう一人入れたい。社長が現場と営業に出ずっぱりなので、そこから抜けたい。日曜に休みが取れるようにしたい。値段だけで比べてくるお客様を、無理なく断れるようになりたい。スタッフにちゃんと賞与を出したい。この地域で「あそこで建てたい」と言われる会社になりたい。
こちらが、本当の目標です。棟数や売上のほうは、それが叶ったかどうかを測るための物差しなんですよね。目的地そのものではありません。
それなのに、経営計画書にも、朝礼のホワイトボードにも、書かれているのは物差しのほうだけ、ということが起こります。
数字だけを置くと、二つのことが起きる
一つは、途中がしんどくなること。
数字だけを置くと、毎日が「まだ足りていないことの確認」になります。今月はあと何棟足りない。去年より反響が何パーセント少ない。全員ががんばっているのに、目に入ってくるのは足りていない数字ばかり。これを一年続けるのは、かなり辛いことです。
もう一つは、達成したときに、思ったより嬉しくないことがある、ということ。
棟数は達成したのに、社長は前より忙しくなっていて、休みも取れなくて、断りたかった条件の仕事も受けたまま。これは実際によく起こります。数字だけを目標にすると、日々の判断が「数字が増えるかどうか」の一本になるので、増える方向の選択ばかりが積み上がるからです。
この仕事を受けるか。この土地を仕入れるか。この人にお願いするか。この設備投資をするか。基準が一つしかないと、どこに着くかは選べません。
数字とセットで、「達成した日の景色」を決める
ですから、目標を立てるときは、数字とセットでもう一つ決めておくことをおすすめしています。それが達成した日の景色です。
その目標が叶っている日の、ふつうの一日を思い浮かべて、言葉にしておく。朝、何時に会社に着いていて、その日はどの現場が動いていて、誰が打ち合わせを担当していて、社長は何をしていて、どんな相談の電話がかかってきて、夕方、何時に家に帰れるのか。そこまで決めておく、ということです。
これをやると、いいことが三つあります。
一つめ:判断がぶれなくなる
景色があると、判断の基準がもう一つ増えます。「この選択は、あの日の一日に近づくか、遠ざかるか」。
同じ一棟でも、近づく仕事と遠ざかる仕事があります。棟数は増えるけれど、社長がまた現場に張りつくことになる仕事。単価は少し下がるけれど、若いスタッフが一人で回せるようになる仕事。景色を持っていると、この違いが見えるようになります。
二つめ:途中でも、一部分だけ先に手に入る
数字は、達成するまでゼロです。八割まで来ていても、達成ではありません。
でも、状態のほうは今日少しだけ実現できます。「断れるようになりたい」が景色の中にあるなら、今日一件だけ、条件を正直に伝えてみることができる。「任せられる会社になりたい」なら、今日の打ち合わせに一人ついてきてもらうことができる。
小さいのですが、これは前借りではなく、その日の一部が本当に手に入っています。数字より先に、状態のほうが先に来ることは、わりとよくあります。
三つめ:人に伝わる
これがいちばん大きいかもしれません。
「今期は◯棟」という目標を朝礼でいくら言われても、スタッフの方からすると、正直、少し他人事です。自分の生活とどうつながるのかが見えないからです。
でも、「三年後、こういう働き方になっている」「こういう相談が来る会社になっている」という景色なら、共有できます。自分がその中でどう働いているかを想像できるからです。
これは、お客様への伝え方でも同じです。「年間◯棟の実績」より、「この会社に頼むと、暮らしがこうなる」のほうが伝わる。同じ会社のことを話しているのに、数字で言うのか景色で言うのかで、届き方はまったく違います。
数字がいらない、という話ではありません
誤解のないように書いておくと、数字がいらないという話ではありません。
景色だけがあって数字がないと、今どのあたりにいるのかが分からなくなります。「近づいている気がする」という感覚だけで走ることになるので、これはこれで危ない。
数字は物差しとして必要です。ただ、物差しを目的地だと思わないほうがいい。目的地は景色のほうで、数字はそこまでの距離を測るもの。両方持っておくのがいいと思います。
景色を決めるときの、三つのコツ
実際にやってみると、ここでつまずくことが多いので、三つだけ書いておきます。
特別な日ではなく、なんでもない平日にする。大きな契約が決まった日や、表彰された日を想像しがちですが、そこはあまり効きません。年に一回しか来ないからです。決めるなら「火曜日の午前中、自分は何をしているか」。そのくらいの解像度がいちばん効きます。判断は、特別な日ではなく平日のほうで積み重なっていくので。
一年後ではなく、三年後で考える。一年後だと、今の延長でしか描けません。今の忙しさが前提のまま、少し数字が良くなった一日が出てくるだけです。三年後にすると、人が増えている前提、やめている仕事がある前提で考えられるので、景色がちゃんと見えてきます。
書けないときは、逆から書く。ここでペンが止まる方は少なくありません。そういうときは「三年後、こうはなっていたくない」という一日のほうを書きます。これはたいていすらすら出てきます。今しんどいことが、そのまま出てくるからです。それを一つずつ裏返していくと、なりたい景色が見えてきます。
経営計画書に、一行だけ足してみる
もしよかったら、いま掲げている目標を一つ選んで、その下に一行だけ書き足してみてください。
その目標が叶っている日、うちの会社の火曜日の午前中は、どうなっているか。
その一行を朝礼で読めるようになったとき、目標はようやく、全員のものになるのだと思います。



