
よそと並べると値打ちが見えなくなる
ブランディングのご相談で、最初のほうによく出てくる言葉があります。うちには特別なものがないんです、というひとことです。
特別と聞くと、大げさなものを思い浮かべます。一生に一度の出来事。めったに行けない場所。僕が考えている特別は、もっと毎日の中にあります。他とは違うこと。それくらいの意味です。
よそと並べると値打ちが見えなくなる
他とは違うところは、たいていもうあります。ただ、長くやっているほど当たり前になって、見えなくなります。しかも周りと比べ始めると、余計に分からなくなる。もっと上手な人がいる。もっと設備の整った店がある。そう思ううちに、いまできていることの値打ちが下がって見えます。
そこに外から一言が入ると、見え方が変わることがあります。そこがいいところですよ。それ、他のお店ではやっていないですよ。言われた瞬間に、これって価値だったんだ、と気づける。僕は、この瞬間からしか始まらないと思っています。
気づいたあとに起きることには順番がある
気づいたあと、お店で起きることには順番があります。
- 自分たちのやっていることに、少し自信が持てる。
- 行動が変わる。やめることと、増やすことが決まる。
- 言葉が変わる。案内やメニューの書き方が変わる。
- 出ていく場所が変わる。載せる媒体や、出る場が変わる。
- 周りからの見られ方が、少しずつ変わる。
見た目や言葉から先に変えたくなりますが、動き始めるのは一段目からです。
美容室で順番どおりに変わっていく
ここからは作例です。駅前から少し外れた場所にある、席が三つの美容室があるとします。ホームページに並んでいるのは「安心価格」と「どんな髪型にも対応します」の二つ。予約の多くは、クーポンサイトの一番安い枠から入ってきます。
あるとき、五年通っているお客様がこう言ったとします。「ここに来ると、次に来るまで家でどうすればいいかが分かるから、助かっています」。
言われた側は、きょとんとします。カットのあとに、その人の髪質に合わせた乾かし方を伝えるのは、この店では十年続けてきたことだからです。特別なことをしている感覚がありません。ここが一段目です。
気づくと、二段目が動きます。乾かし方を伝える時間をきちんと取るために、予約の枠を一人あたり十分長くする。三段目で、言葉が変わります。「どんな髪型にも対応します」が、「切ったあと、家での乾かし方まで一緒に決めます」になる。
四段目で、出ていく場所が変わります。一番安い枠を出すのをやめて、枠の説明文に乾かし方の話を書く。五段目で、来た人の言葉が変わります。髪が扱いやすくなったから、と言われるようになる。
いま何ができているかを先に数える
案内文やメニューの言葉だけを先に書き替えても、たいてい元に戻ります。書いた本人が、まだそれを自分の価値だと思えていないからです。
だから、お店の言葉を作り直す前に、いま毎日やっていることを一緒に数えるところから始めたいと思っています。数えているうちに、本人が驚くものが出てきます。言葉が変わるのは、そのあとです。



