
スタッフの希望に条件と期日で返す
長く続けてくれているスタッフがいると、お店としては安心します。求人を出さずに回っていて、辞めたいという話も出てこない。ありがたい状態。
辞める話が出てこないことと本人の希望が分かっていることは、別に確かめたほうがいいと思っています。何を増やしたくてここにいるのかを、一度も聞いていない場合があるからです。
残るほうでは比べる作業が起きにくい
よそへ移るときは、みんなよく調べます。休みは取りやすいのか、通いやすいのか、どんな仕事を任されるのか。募集の文面を見ながら、今の職場と並べます。
今の職場に残るほうでは、その作業をしないまま続くことがあります。先月も来ていたから、今月も来ている。毎日忙しくしていれば、それで何年かたちます。
だから条件のいい話が外から来たときに、比べる材料がお店の側に置かれていないことがあります。ここで何が積めて、どんな時間の使い方ができるのか。店が伝えていなければ、本人は自分の持ち札を知らないまま、よその条件だけを見ることになります。
暮らしは見えても希望は分からない
人数の多い会社は、制度でこれをやることが多いと思います。等級をつくり、面談の書式を決め、年に何回と運用する。うちのような人数では、そこまで組めません。
そのかわり、一人ひとりの暮らしが目に入っています。誰がどんな生活をしているかは、だいたい分かる。ただ、これからどうしたいかは、目に入っていても分かりません。
そこは聞くしかないのですが、聞いたあとが早い。シフトも任せる範囲も、その場で決められる。決めるまでが短くて済むぶん、聞いたことをすぐ形にできます。
聞くことは二つ。この仕事で、これから何を増やしたいか。今の暮らしのほうで、動かしたくない時間はあるか。
カフェで考えてみる
スタッフが四人のカフェに、三年続けてくれている方がいるとします。仕込みも接客も任せられて、辞めたいという話も出ていません。
聞いてみたら、焼き菓子を自分で考えて出してみたい、と返ってきたとします。お店から頼まれたことではないので、言う場面がありませんでした。頼まれた仕事はきちんとやる人です。
ここで店ができるのは、条件を決めて伝えることです。来月から、月に一種類なら出せる。材料費は店が持つ。売り場の札には本人の名前を入れる。伝えるのは、この三つ。
条件が決まると、本人が動ける場所ができます。仕入れのときに、使いたい材料を相談してくる。売れた数を数えて、来月は何を作るかを持ってくる。任せた範囲は焼き菓子ひとつでも、その中で自分で決めることが増えていきます。
時間の希望が返ってくることもあります。子どもが小さいうちは夕方を家に置いておきたい、という場合です。そのときに決めるのはシフトです。来月から、夕方の二時間を外してシフトを組む。火曜は夕方の手が足りないので、その日だけ別の人に入ってもらう。いつからで、どの曜日かまで答えると、本人は先の予定を立てられます。
できませんという返事も材料になる
聞いたことを全部かなえる話ではないと思っています。この作例では出せると決めましたが、逆に手が回らないときは、できませんとそのまま伝えます。そこに、できない理由といつ見直すかを添えておきたいところです。仕込みの人手が戻る来年の春にもう一度話す、というところまで決めておく。
いいですね、で受けて終わる返事だと、本人には条件も期日も渡りません。次に何をすればいいのかが分からないまま、また同じ毎日に戻るだけです。できませんと期日つきで答えておけば、本人はそれまでに何をするかを考えられます。
そのうえで、この店では無理だ、と本人が判断することもあります。それはそれでいい。聞かないまま何年か過ぎるより、お互いに分かっているほうが、次の相談もしやすいからです。
働く人にもうちで積めるものを見せる
お客様には、うちの良さを見せようとします。何ができる店なのか、どこが他と違うのか。写真も言葉も用意します。
中で働く人には、それをあまり見せていないかもしれません。ここで何が積めるのか、どんな時間の使い方ができるのか。伝えていなければ、相手は知らないまま続けることになります。
来月の面談でも、雑談のついででもかまいません。これから何を増やしたいか、どの時間を守りたいか。その二つを聞いて、その場で条件と期日を返す。そこまでやると、その人がうちで続ける理由が、お互いの言葉になります。



