Journal ジャーナル

本音が出る打ち合わせは、担当者の機嫌から始まる
こんにちは、中村です。住宅会社や工務店のブランディングをお手伝いしていると、「打ち合わせでお客様の本音が引き出せない」というご相談をいただくことがあります。今日は、ヒアリングシートやトーク台本の前に効いているもの、担当者の機嫌の話を書いてみます。
不安を口にできるかどうかは、その場の空気で決まる
家づくりは、多くの方にとって人生でいちばん大きな買い物です。予算のこと、家族の事情、親からの援助、住宅ローンへの不安。本当は相談したいのに、言い出しにくいことがたくさんあります。
そういう話が出てくるかどうかは、質問の仕方だけで決まるわけではありません。ピリピリした空気の中では、本音の話はなかなか出てこない。お客様が安心して、「こんなことを言ってもいいかな」というところまで話してくださる。実は、そこにいちばん大事なものが入っていることが多いんです。まだうまく言葉になっていない不安、ずっと引っかかっていた条件、家族の中でまだ整理できていない希望。それが出てくるかどうかで、その先の提案の深さが変わります。
そして、そういう場は、こちらの機嫌がいいところから生まれます。だから機嫌を整えることは、気持ちの問題ではなく、打ち合わせの準備のひとつです。図面や資料を用意するのと同じくらい実務的な準備だと思っています。
機嫌は、隠しても伝わってしまう
機嫌は表に出ます。自分では隠しているつもりでも、声のトーンや返事の短さで、相手には伝わってしまう。
お店に入って、店員さんがなんだか不機嫌そうだと、こちらも気を遣いますよね。頼みたかったことを頼みづらくなる。逆に、感じのいい人だと「もう一個聞いてみようかな」と思える。同じお店でも、受ける印象が随分変わります。
住宅の打ち合わせでも同じことが起きています。担当者の機嫌がよくないと、お客様は質問を一つ飲み込みます。その飲み込まれた質問が、あとで「やっぱり不安だから、他も見てみます」に変わっていく。決め手になるのは、性能の説明の巧拙よりも、「この人には何でも聞ける」と思えたかどうか、ということが少なくありません。
機嫌が悪いと、判断も雑になる
機嫌は、ただの気分の問題ではありません。機嫌が悪いと、まず判断が雑になります。イライラしているときは、細かいところを確認する気力がなかったり、一回で流してしまったりする。あとで見返して「なんでこんなミスを」ということが起きやすい。
住宅づくりは、決めごとの数がとても多い仕事です。仕様の確認漏れ、伝達のすれ違い、変更内容の共有忘れ。そういうことが起きやすいのは、忙しさそのものよりも、機嫌が下がったままの状態で判断を重ねているときかもしれません。
上に立つ人の機嫌は、会社の天気になる
もうひとつ。上に立つ人の機嫌は、思っている以上に下に伝わります。社長や上司が不機嫌だと、周りは顔色を伺って、思ったことを言いづらくなる。逆に機嫌がいいと、ちょっとした相談もしやすくなって、いい意見が集まってくる。
ここで止まっているのは、意欲ではなく情報です。現場で気づいた小さな違和感、お客様からの微妙なひと言、伝えにくい失敗。それが上に届かないと、小さく済んだはずのことが、あとから大きなクレームになって出てきます。立場が上になるほど、自分の機嫌が、周りにとっての天気みたいになってくる。社内の空気は、そのまま接客の空気になり、お客様に伝わっていきます。
気合ではなく、「戻し方」を持っておく
とはいえ、「常に上機嫌でいこう」と気合で解決する話ではありません。むしろ逆で、機嫌が下がったときに自分を戻す方法をいくつか持っておくほうが現実的です。
人は、機嫌が悪くなる原因のほうは、割とよく分かっています。寝不足、空腹、苦手な相手との時間。でも、何をすると自分の機嫌が戻るのか。そちら側は意外と知りません。少し歩くと落ち着く人、好きな音楽で切り替わる人、温かい飲み物を一杯入れる人、机の上を少し片付ける人。戻し方は人によって全然違います。まず、自分にとって「これをやると少し楽になる」をいくつか見つけておく。それが分かっていれば、落ちたときにずるずる引きずらずに済みます。
受け取り方にも幅があります。「ここ直しておいて」と言われたとき、ダメ出しされたと受け取れば一気に沈むけれど、ちゃんと見てもらえている、期待されていると受け取れば、同じ言葉でもそこまで落ち込まない。出来事そのものは変えられなくても、そこにどんな意味をつけるかは、少しだけ自分で選べます。
不機嫌の責任を、お客様や仲間に肩代わりさせない
第一歩は、気づくことです。「今、自分の機嫌が悪いな」と。当たり前のようでいて、これが難しい。イライラしているまさにそのときは、自分の状態に気づかないまま、周りのせいにしてしまいがちです。あの人のせい、この状況のせい、と。いったん「今下がっているな」と気づけると、それだけで少し冷静になれます。悪いのは相手ではなく、今日の自分の調子かもしれない、と一歩引ける。気づいて、戻し方をひとつ試す。この順番だけでも、現場の空気は変わります。
機嫌が下がること自体は、悪いことではありません。誰にでも虫の居所が悪い日はあります。ただ、その不機嫌を態度で表してしまうと、それが周りに移っていく。自分の機嫌を自分で取るというのは、我慢して笑顔を作ることではなく、自分の不機嫌の責任を、お客様や仲間に肩代わりさせないということだと思います。
いつも完璧に上機嫌でいる必要はありません。大事なのは、ゼロか百かではなく、下がったときに少しだけ戻せる自分でいること。打ち合わせの前に、ひと呼吸置いて自分の機嫌を確かめる。それだけで、お客様が話してくれることの量と深さが変わってきます。選ばれ続ける会社の差は、案外そういうところに出るのだと思います。



