
二割引は、残るお金では二割で済まない
値引きの相談を受けることがあります。今月あと少し足りないので、二割引にして数を出したい。よくある判断ですし、必要な場面もあります。
ただ、二割引が会社にとって二割の話で済むかというと、そうではありません。ここを見誤ると、売れているのに苦しくなります。
売上で二割、残るお金では二割以上
具体的な数字で見たほうが早いと思います。
一万円の商品があって、原価が千円だとします。売れると、会社の手元には九千円が残ります。ここから家賃も、光熱費も、システムの利用料も、人の給料も出ていきます。
これを二割引にすると、売価は八千円です。原価の千円は変わりませんから、残るのは七千円になります。
売価は一万円から八千円で二割の目減りです。ところが、家賃や給料を払う原資のほうは、九千円から七千円へ二割を超えて減っています。値引きは、売価の側より、残る側のほうが大きく削れます。
原価の比率が高い商売ほど、この差は開きます。値札の見た目と、会社の体感が一致しないのはこのためです。
数を増やしても、追いつかないことがある
値引きの根拠は、たいてい数が増えることです。二割下げても数が増えれば取り返せる、という考え方です。
この例だと、下がった分を取り戻すには、単純に一・三倍近い数が要ります。しかも数が増えれば、仕入も、梱包も、送料も、決済の手数料も、現場の手数も一緒に増えます。
僕自身、店をやっていたころに同じことをしました。月の売上は伸びていくのに、残っているお金は前とあまり変わらない。増えていたのは忙しさのほうでした。数字が伸びているので、しばらく気づけませんでした。
値引きは、値段だけを下げているわけではない
もうひとつ、ブランドの側から見ておきたいことがあります。
値引きで買った人は、次も同じ値段を待ちます。定価で買った人には、待てば安くなるという情報が残ります。一度出した価格は、次の判断の基準として相手のなかに残り続けます。
つまり値引きは、その月の数字を作る代わりに、来月以降の価格の説得力を少しずつ使っています。使っているのは在庫ではなく、これから先の交渉の余地です。
この目減りは帳簿に出てきません。だから、値引きの判断はいつも安く見えます。
下げる前に、確かめておきたいこと
それでも下げる場面はあります。在庫を動かしたいとき、新しい層に届けたいとき、関係を続けたい相手がいるとき。
そのときに三つだけ確かめておくと、あとの判断が楽になります。
一つ目は、この値引きで残る額がいくらになるか。売価ではなく、原価を引いたあとの数字で見ます。二つ目は、いつまでの話か。期限のない値引きは、そのまま次の定価になります。三つ目は、なぜ下げるのかを相手に言えるか。理由のある値引きは価格の説明を強めますが、理由のない値引きは、元の値段のほうを疑わせます。
価格は、ブランドがいちばん短い言葉で語っている部分です。下げること自体より、下げ方に理由があるかどうかを見ておきたいと思っています。



