
業界一位と書いて、誰も動かない
経営計画に「業界ナンバーワン」「全国展開」と書いてある。それなのに、社内の誰もその言葉を口にしない。よくある光景です。
原因は浸透のさせ方ではないことがあります。そもそも、その言葉が借りてきたものだったという場合です。
目標の入り口は、一種類ではない
五年後どうなっていたいですか。この問いにすぐ答えられる経営者がいます。会社をこの規模にしたい、この地域を押さえたい、と未来の状態から考える。ここから逆算して、五年、三年、今年、と落としていく。世の中の目標設定は、ほぼこの形を前提にしています。
一方で、同じ問いに詰まる経営者もいます。五年後は分からない。大きくしたいわけでもない。売上目標を掲げても気持ちが乗らない。
これを「目標が曖昧」と処理すると、判断を誤ります。この人たちは、どこへ行きたいかよりどうありたいかを先に持っているだけです。取引先に嘘をつかない。無理な納期を約束しない。担当が替わっても同じ品質で返す。価値観は明確で、未来の一点だけが空欄になっている。
浸透しない言葉の作られ方
後者のタイプに、壮大なビジョンの記入を求めるとどうなるか。
出てくるのが、業界ナンバーワンであり、全国展開です。よその会社の計画書で見た言葉が、そのまま自社の紙に載る。書いた本人が納得していないので、社内で語られることもありません。
この状態の目標は、組織を前に進める道具ではなく、達成できていないことを毎月確認する装置になります。
数字は、意味がついて初めて動く
今年は売上一億円、と掲げたとします。
未来から考えるタイプなら、そのために何をするかへすぐ移れます。もう一方のタイプは、なぜ一億円なのか、で止まります。ここで意欲の問題だと読むのは早計です。順番が違うだけです。
いいサービスを届けたい。そのために人を増やしたい。増えた人が安心して働ける会社にしたい。だから一億円の売上が要る。この順で並べ直すと、同じ数字が動き出します。
数字はゴールではなく、大切にしたいことを実現するための手段になった。それだけの違いです。
ブランドの言葉は、どちらから作るか
ここはブランドづくりの実務に直結します。
ビジョンから作るやり方は、実現したい未来を先に置き、そこへ向かう理由をあとから足していきます。未来の絵がある会社では、これが速い。
価値観から作るやり方は、すでに社内にある判断のクセを先に言葉にします。どんな仕事を受けてきたか。何を断ってきたか。何にお金を使ってきたか。その積み重ねから、大切にしてきたものを取り出す。未来の絵が無い会社でも、こちらなら必ず素材があります。
ビジョンが無いから言葉が作れない、ということはありません。過去の判断は、価値観の記録そのものだからです。
二つがつながった状態が、いちばん強い
もちろん、経営者を二種類に分類して終わりにする話ではありません。
こんな未来を作りたいというビジョンがあり、なぜそれをやりたいのかという価値観がある。この二つがつながっているとき、言葉は社内でも社外でも通ります。
違うのは入り口だけです。未来を描くと動ける会社もあれば、大切にしたいことを確かめると動ける会社もある。
自社の計画書に、社内の誰も口にしない言葉が載っているとします。浸透施策を足す前に、その言葉がどちらの入り口から来たものかを見てください。借りてきた言葉なら、いくら回数を増やしても定着しません。



