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住宅写真は、盛ると来場で信頼を失う

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「実物よりよく見せてほしい」。住宅会社の撮影でも、聞く言葉です。せっかく費用をかけてつくるサイトやパンフレットなら、よく見せたい。その気持ちはよく分かります。でも、盛ってしまうと、来場したときのギャップが、かえって信頼を削ります。今日は、住宅会社の見せ方における「盛らない」ということを書いてみます。

盛ると、来場時のギャップが残る

写真がすごくきれいだと、見た人の期待がぐっと上がります。「いい家をつくる会社だな」と。それ自体はいいことですが、問題は次です。実際にモデルハウスや完成見学会に足を運んだとき、その期待と目の前のものが一致していないと、「あれ、思っていたのと違う」となる。このギャップは、強く残ります。

家は、人生でいちばん大きな買い物です。だからこそ、お客様は写真を隅々まで見て、期待をふくらませて来場します。広く見せた部屋が実際は狭かった、雰囲気が写真と違った——その差は、その場の印象そのものより強く残ってしまう。印象は、実物の良し悪しだけでなく、事前に持たせた期待との差で決まるからです。

削れるのは、その先の言葉への信頼

いちばんもったいないのは、失うのが来場時のがっかりだけではないことです。「写真と違った」と一度感じたお客様は、その後の営業の言葉も、少し疑うようになります。性能の説明も、価格の話も、アフターの約束も。家づくりは、契約してからの長い信頼関係が肝心です。その入口で「この会社は盛る」と思われると、その先の大事な話が、まっすぐ届きにくくなる。

盛らないことは、手を抜くことではない

盛らないというのは、手を抜くことではありません。むしろ逆で、実際にあるものの一番いい瞬間を捕まえる努力はします。光がいい時間を狙う、いちばん映える角度を探す、片付けて余計なものをどける、住まい手の自然な表情を待つ。やらないのは、ないものを足すこと。狭い場所を広く見せる、置いていない家具を置いてあるように見せる。ここを超えると、写真は嘘になります。

そして現場では、写真の中で足すより、実際の空間を整えるほうが、たいてい早い。撮影前に片付け、動線を少し変えるだけで、写真は見違えます。しかも、それは来場したお客様が、同じものを実際に見られる。写真の中だけでよくしたものは、その一枚の中にしか存在しません。

強みは、自社が「当たり前」と思っている部分にある

なぜ盛りたくなるのか。多くは、自分たちの価値に、自分たちで気づけていないからだと思います。このままでは他社に負ける気がして、何かを足したくなる。でも、選ばれている理由は、たいていその会社が「そんなの当たり前」と思っている部分にあります。現場をいつもきれいにしている。無理な提案はしない。引き渡したあとも気にかけて足を運ぶ。本人たちは価値と思っていないから、そこを見せずに、他社と同じような飾りを足そうとしてしまう。

ブランディングでやることは、盛ることではなく、すでにあるのに埋もれている強みを見つけて、ちゃんと見えるようにすることです。ない光を書き足すのではなく、あるのに当たっていない光に光を当てる。そして、等身大の一番いいところを見せているなら、無理なく続けられます。選ばれ続ける住宅会社は、一発の派手さではなく、「思ってた通り、いい会社だった」の積み重ねでできている。まずは自社のサイトを、はじめて家を探す人の目で見てみてください。来場したお客様が「思ってた通りだな」と感じるか。盛っているところがあれば、写真ではなく、その部分の実物を良くする。それが、いちばんの近道です。

社長が抱え込む会社は、選ばれ続けにくい

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現場も、見積もりも、打ち合わせも、最後は社長が見ないと決まらない。地域の住宅会社や工務店では、よくある形だと思います。社長が優秀なほど、こうなりがちです。でも、社長がすべてを抱えている会社は、社長が動けなくなった瞬間に止まる。強く見えて、いちばん脆い。今日は、ひとりで抱えないほうが結局うまくいく、という話を書いてみます。

「自分がやったほうが早い」の落とし穴

抱え込んでしまう理由は、だいたい三つです。「自分でやったほうが早い」「頼むのは申し訳ない」「任せると、思い通りにならない」。どれも、その場では正しく見えます。とくに家づくりは一棟一棟が大きくて、失敗が許されないぶん、社長がぜんぶ見たくなる気持ちはよく分かります。

でも、全部を社長が通す形が続くと、判断も情報も一人のところに集まります。お客様への対応も、社長の手が空くまで待つことになる。会社の成長が、社長一人のキャパシティで頭打ちになってしまう。これは、ブランドとしても弱い状態です。お客様から見て「あの会社は社長だけ」という印象は、選ばれ続ける会社にはなりにくい。

任せることは、質を下げることではない

抱え込みの奥にあるのは、「自分と違うものが返ってくるのが怖い」という感覚です。でも、自分と違うは、悪いことではありません。一人で考えられることは限られていて、人に渡すと、自分では思いつかなかった提案が返ってくる。

プランでも、お客様への説明でも、一人で仕上げたものより、途中で誰かの目が入ったもののほうが、たいてい良くなります。担当している本人は中身を全部分かっているので、伝わりにくいところに気づけない。「初めて見る人の目」は、自分の中からは出てこないからです。任せることは、手を抜くことではなく、質を上げるための工程でもあります。

丸投げと、任せることは違う

ただし、何も伝えずに「あとは頼む」と放り出すのは、丸投げです。何を大事にしているかを渡さないまま任せると、「思っていたのと違う」となってやり直しになり、「やっぱり自分でやったほうが早い」に逆戻りする。

任せるとは、「うちはここだけは外さない」という基準を渡して、やり方は任せること。これは、ブランディングそのものと同じ構造です。会社が何を大事にしているかが言葉になっていれば、スタッフは一つひとつ社長に確認しなくても、その基準で判断できる。逆に言えば、任せられないのは、大事にしていることがまだ言葉になっていないからかもしれません。属人化を再現性に変える第一歩は、社長の頭の中にある判断基準を、外に出して共有することです。

任せてもらえないと、人は育たない

任せてもらえないと、スタッフは育ちません。いつも社長が最後に全部やり直してしまうと、経験する機会がない。最初は時間がかかっても、失敗も込みで任せる。そうやってはじめて、次から自分で判断できるようになる。人が育てば、社長は本当に社長にしかできない仕事——会社の方向を決めることや、大事なお客様との関係——に時間を使えるようになります。

頼るのは、弱さではありません。むしろ、一人に依存しない会社をつくる、強さの設計です。頼むのは申し訳ない、ではなく、頼ることで相手を信じている。そう捉え直すことが、社長がいなくても回る、選ばれ続ける会社への入口になると思っています。まずは、これは本当に自分でなければできない仕事か、と一度棚卸ししてみるところから始めてみてください。

ロゴをつくり直しても、それだけでは選ばれない

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ロゴやサイトをつくり直せば、他社と差がつく。もっと選ばれるようになる。そう考えて見た目から手をつける住宅会社は、少なくありません。でも、ロゴを新しくしただけで選ばれるようにはなりません。ロゴは器で、注がれるのは、打ち合わせや現場での体験のほうだからです。

あのロゴが優れていたから、強くなったのか

誰もが知っているブランドのマークを、いくつか思い浮かべてみてください。かじられたりんご、緑の丸いコーヒー、三本線。名前を言わなくても浮かぶし、雰囲気まで立ち上がってくる。

では、あのロゴのデザインが優れていたから、強くなったのでしょうか。順番は逆だと思います。形だけを見せられても、そんなに感想は出てこない。マークを見ていろんなものが立ち上がるのは、その形と一緒に過ごした時間が、こちらの中に溜まっているからです。ロゴが意味を持っていたのではなく、あとから意味が入っていった。

ロゴは器、注がれるのは現場の体験

ロゴは器だと思っています。それ自体はからっぽで、最初はただの形。そこにいい体験が注がれると中身が溜まり、そうでない体験が注がれればそれも溜まる。同じマークでも受ける印象が人によって違うのは、その人がその器に何を注いできたかが違うからです。

住宅会社にとって、その「注がれるもの」は何か。最初の問い合わせの電話の感じ。打ち合わせでの、こちらの話の聞き方。現場の整い方。引き渡したあとの、ちょっとした連絡。お客様は、そういう一つひとつの体験を、会社のマークに注いでいます。だから、体験がいいものになっていれば、マークにいい中身が溜まる。ロゴを磨くより先に、この体験の質が問われます。

ロゴを変えても、それだけでは売上は上がらない

「ロゴを変えたら、集客は変わりますか」と聞かれると、正直に「変えただけでは、たぶん変わりません」とお答えします。中身が変わっていないのに器だけ新しくしても、注がれるものは同じだからです。むしろ、長く使ってきたマークには、その会社が積み上げてきた時間が入っているので、変えることでこれまでの積み重ねをこぼしてしまうこともあります。

そっけないくらいシンプルなマークが強いのも、同じ理由です。造形が優れているからではなく、その形が長い時間ずっと同じ姿で、いろんな場所に出続けてきたから。派手さではなく、一貫と継続。これは、地域で選ばれ続ける会社の条件と、ほとんど同じです。

形をつくる前に、何を大事にするかを言葉にする

もちろん、器がいらないわけではありません。器がなければ注げない。見分けられること、思い出せること、積み重ねが一箇所に貯まること。ロゴにはその働きがあります。

だからこそ、つくる順番が大事です。僕らがロゴやブランディングのお手伝いをするとき、形を考える時間より、その前の時間のほうが長い。この会社は何を大事にしているのか。何をしないと決めているのか。どんなお客様に、どんな暮らしを届けたいのか。ひたすら聞いて、言葉にしていきます。そこが決まっていないと、案を並べても「なんとなく今っぽい」「社長の好み」で決まってしまい、流行が変わるたびに、また変えたくなる。

そして、この「何を大事にするか」の言葉は、ロゴのためだけのものではありません。営業トークの軸になり、現場での判断の基準になり、写真やコピーの方向を決める拠りどころになる。ロゴを新しくすること自体はゴールではなく、そこに何を注いでいくか。その注ぐものは、日々の仕事の中でつくられます。見た目を変える前に、自分たちが毎日何を注いでいるかを見てみる。遠回りに見えて、それがいちばんの近道だと思っています。

八方美人になるのは、たった一人の顔がないから

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ロゴも、言葉も、写真の雰囲気も、なんとなくいい感じにはなった。けれど、どこか他社と似ている。決めきれずに八方美人になっているとき、足りていないのは情報でも予算でもなく、たった一人の顔だったりします。

「幅広い層に」と考えるほど、無難になる

カフェをやるとして、「幅広い層に来てほしい」と考えていると、メニューも内装も、なんとなく無難な、どこにでもあるような感じになりがちです。

でも「平日の昼間に、一人でゆっくり本を読みたい人」を思い浮かべると、席の間隔はどうしようか、音楽はどのくらいの音量がいいかな、といったことが決められるようになります。

ブランドづくりで手が止まるのは、たいていこの状態です。選択肢が多すぎるのではなく、選ぶ基準になる一人がいない。

ターゲットは地図、ペルソナはそこに立つ一人

「ターゲットとペルソナって、何が違うんですか」とよく聞かれます。

ターゲットは、狙うお客さんの層です。30代の女性で、都市部に住んでいて、共働きで、といった属性で区切ったグループ。地図の上で、どのあたりを狙うか場所を決めるようなものです。これはこれで必要で、全員に向けてというのは現実的ではありません。

ただ、地図だけでは顔が見えない。「30代女性、共働き」と言われても、その人が今日どんな一日を過ごして、何にほっとして、何にもやもやしているのかは見えてこない。人の心を動かす言葉は、その顔のところから生まれます。

ペルソナは、その地図の中に立っているたった一人です。名前をつけて、どんな仕事をしていて、朝は何時に起きて、休みの日は何をしていて、最近どんなことに悩んでいて、というところまで描いていく。

平均に寄せるとぼやける

ここで勘違いされやすいのが、ペルソナは「平均的な人」ではないということです。むしろ逆で、思いっきり具体的な一人にしていきます。

「30代の平均的な女性」と言われても、なかなか顔は浮かびません。いろんな人をならして真ん中を取った、のっぺりした像だからです。でも「2駅先のマンションに住んでいて、2歳の子どもがいて、朝はいつもバタバタしていて、寝る前の10分だけが自分の時間」というところまで具体的にすると、急に顔が見えてきます。

平均に寄せるとぼやけて、一人に寄せるとくっきりする。ブランドの言葉が「いいことは書いてあるけれど、心に残らない」ものになるとき、たいてい平均に寄っています。

絞ると届かなくなる、は逆

一人にまで絞ったら、その他の大勢に届かなくなるのではないか。とても自然な不安だと思います。でも実際は、逆のことが起きます。

駅前に「皆さん、ぜひお立ち寄りください」と書かれた看板があっても、たぶん素通りします。自分に言われている気がしないからです。でも「仕事帰りに、少しだけ一人になりたいあなたへ」と書いてあれば、「あ、それ今の私かも」と足が止まる人がいる。

求人でも同じで、「やる気のある人募集」だと誰にも刺さらないけれど、「前の職場で、数字ばかりを追うのに疲れてしまった人へ」だと、「あ、私のことだ」と思う人が出てきます。一人に絞ることは、狭めることではなく、深く届かせるためのやり方です。

その一人は、実際の声から立ち上げる

ただし、この一人は頭の中だけで勝手につくるものではありません。実際にいるお客さんの顔や、話を聞かせてもらったときの言葉。そういう本物の欠片を持ち寄って組み立てていきます。

都合のいい理想のお客さんを空想でつくってしまうと、その人はたいてい現実には存在せず、言葉が上滑りする。ブランドの言葉がどこか他人事に聞こえるとき、原因はここにあることが多いです。

ペルソナは、迷ったときに立ち返る判断の基準

ブランディングのお手伝いをするとき、この一人を描くところに時間をかけます。ロゴをどうするか、どんな言葉を使うか、写真はどういう雰囲気にするか。決めていくときに、はっきりした一人の顔がないと判断がブレるからです。あれもいいな、これもいいな、で、だんだん八方美人になっていく。

でも「この一人だったら、こっちの言葉のほうが響くよね」と話せると、チーム全員が同じ方向を向きます。ペルソナは飾りではなく、迷ったときに立ち返る判断の基準です。正解を一つに決めるためというより、チームやお客様と一緒に同じ人を思い浮かべるために描いています。

そして、ターゲットがいらないわけではありません。地図がないままいきなり一人だけを見ると、その一人だけの偏った話になってしまう。地図があるから安心して一人に近づけるし、一人がいるから地図に体温が通ってくる。この二つは、セットで使うものです。

本音が出る打ち合わせは、担当者の機嫌から始まる

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こんにちは、中村です。住宅会社や工務店のブランディングをお手伝いしていると、「打ち合わせでお客様の本音が引き出せない」というご相談をいただくことがあります。今日は、ヒアリングシートやトーク台本の前に効いているもの、担当者の機嫌の話を書いてみます。

不安を口にできるかどうかは、その場の空気で決まる

家づくりは、多くの方にとって人生でいちばん大きな買い物です。予算のこと、家族の事情、親からの援助、住宅ローンへの不安。本当は相談したいのに、言い出しにくいことがたくさんあります。

そういう話が出てくるかどうかは、質問の仕方だけで決まるわけではありません。ピリピリした空気の中では、本音の話はなかなか出てこない。お客様が安心して、「こんなことを言ってもいいかな」というところまで話してくださる。実は、そこにいちばん大事なものが入っていることが多いんです。まだうまく言葉になっていない不安、ずっと引っかかっていた条件、家族の中でまだ整理できていない希望。それが出てくるかどうかで、その先の提案の深さが変わります。

そして、そういう場は、こちらの機嫌がいいところから生まれます。だから機嫌を整えることは、気持ちの問題ではなく、打ち合わせの準備のひとつです。図面や資料を用意するのと同じくらい実務的な準備だと思っています。

機嫌は、隠しても伝わってしまう

機嫌は表に出ます。自分では隠しているつもりでも、声のトーンや返事の短さで、相手には伝わってしまう。

お店に入って、店員さんがなんだか不機嫌そうだと、こちらも気を遣いますよね。頼みたかったことを頼みづらくなる。逆に、感じのいい人だと「もう一個聞いてみようかな」と思える。同じお店でも、受ける印象が随分変わります。

住宅の打ち合わせでも同じことが起きています。担当者の機嫌がよくないと、お客様は質問を一つ飲み込みます。その飲み込まれた質問が、あとで「やっぱり不安だから、他も見てみます」に変わっていく。決め手になるのは、性能の説明の巧拙よりも、「この人には何でも聞ける」と思えたかどうか、ということが少なくありません。

機嫌が悪いと、判断も雑になる

機嫌は、ただの気分の問題ではありません。機嫌が悪いと、まず判断が雑になります。イライラしているときは、細かいところを確認する気力がなかったり、一回で流してしまったりする。あとで見返して「なんでこんなミスを」ということが起きやすい。

住宅づくりは、決めごとの数がとても多い仕事です。仕様の確認漏れ、伝達のすれ違い、変更内容の共有忘れ。そういうことが起きやすいのは、忙しさそのものよりも、機嫌が下がったままの状態で判断を重ねているときかもしれません。

上に立つ人の機嫌は、会社の天気になる

もうひとつ。上に立つ人の機嫌は、思っている以上に下に伝わります。社長や上司が不機嫌だと、周りは顔色を伺って、思ったことを言いづらくなる。逆に機嫌がいいと、ちょっとした相談もしやすくなって、いい意見が集まってくる。

ここで止まっているのは、意欲ではなく情報です。現場で気づいた小さな違和感、お客様からの微妙なひと言、伝えにくい失敗。それが上に届かないと、小さく済んだはずのことが、あとから大きなクレームになって出てきます。立場が上になるほど、自分の機嫌が、周りにとっての天気みたいになってくる。社内の空気は、そのまま接客の空気になり、お客様に伝わっていきます。

気合ではなく、「戻し方」を持っておく

とはいえ、「常に上機嫌でいこう」と気合で解決する話ではありません。むしろ逆で、機嫌が下がったときに自分を戻す方法をいくつか持っておくほうが現実的です。

人は、機嫌が悪くなる原因のほうは、割とよく分かっています。寝不足、空腹、苦手な相手との時間。でも、何をすると自分の機嫌が戻るのか。そちら側は意外と知りません。少し歩くと落ち着く人、好きな音楽で切り替わる人、温かい飲み物を一杯入れる人、机の上を少し片付ける人。戻し方は人によって全然違います。まず、自分にとって「これをやると少し楽になる」をいくつか見つけておく。それが分かっていれば、落ちたときにずるずる引きずらずに済みます。

受け取り方にも幅があります。「ここ直しておいて」と言われたとき、ダメ出しされたと受け取れば一気に沈むけれど、ちゃんと見てもらえている、期待されていると受け取れば、同じ言葉でもそこまで落ち込まない。出来事そのものは変えられなくても、そこにどんな意味をつけるかは、少しだけ自分で選べます。

不機嫌の責任を、お客様や仲間に肩代わりさせない

第一歩は、気づくことです。「今、自分の機嫌が悪いな」と。当たり前のようでいて、これが難しい。イライラしているまさにそのときは、自分の状態に気づかないまま、周りのせいにしてしまいがちです。あの人のせい、この状況のせい、と。いったん「今下がっているな」と気づけると、それだけで少し冷静になれます。悪いのは相手ではなく、今日の自分の調子かもしれない、と一歩引ける。気づいて、戻し方をひとつ試す。この順番だけでも、現場の空気は変わります。

機嫌が下がること自体は、悪いことではありません。誰にでも虫の居所が悪い日はあります。ただ、その不機嫌を態度で表してしまうと、それが周りに移っていく。自分の機嫌を自分で取るというのは、我慢して笑顔を作ることではなく、自分の不機嫌の責任を、お客様や仲間に肩代わりさせないということだと思います。

いつも完璧に上機嫌でいる必要はありません。大事なのは、ゼロか百かではなく、下がったときに少しだけ戻せる自分でいること。打ち合わせの前に、ひと呼吸置いて自分の機嫌を確かめる。それだけで、お客様が話してくれることの量と深さが変わってきます。選ばれ続ける会社の差は、案外そういうところに出るのだと思います。