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八方美人になるのは、たった一人の顔がないから

この記事は、YouTube(音声)でも聴けます。作業のおともに、ながらでどうぞ。

ロゴも、言葉も、写真の雰囲気も、なんとなくいい感じにはなった。けれど、どこか他社と似ている。決めきれずに八方美人になっているとき、足りていないのは情報でも予算でもなく、たった一人の顔だったりします。

「幅広い層に」と考えるほど、無難になる

カフェをやるとして、「幅広い層に来てほしい」と考えていると、メニューも内装も、なんとなく無難な、どこにでもあるような感じになりがちです。

でも「平日の昼間に、一人でゆっくり本を読みたい人」を思い浮かべると、席の間隔はどうしようか、音楽はどのくらいの音量がいいかな、といったことが決められるようになります。

ブランドづくりで手が止まるのは、たいていこの状態です。選択肢が多すぎるのではなく、選ぶ基準になる一人がいない。

ターゲットは地図、ペルソナはそこに立つ一人

「ターゲットとペルソナって、何が違うんですか」とよく聞かれます。

ターゲットは、狙うお客さんの層です。30代の女性で、都市部に住んでいて、共働きで、といった属性で区切ったグループ。地図の上で、どのあたりを狙うか場所を決めるようなものです。これはこれで必要で、全員に向けてというのは現実的ではありません。

ただ、地図だけでは顔が見えない。「30代女性、共働き」と言われても、その人が今日どんな一日を過ごして、何にほっとして、何にもやもやしているのかは見えてこない。人の心を動かす言葉は、その顔のところから生まれます。

ペルソナは、その地図の中に立っているたった一人です。名前をつけて、どんな仕事をしていて、朝は何時に起きて、休みの日は何をしていて、最近どんなことに悩んでいて、というところまで描いていく。

平均に寄せるとぼやける

ここで勘違いされやすいのが、ペルソナは「平均的な人」ではないということです。むしろ逆で、思いっきり具体的な一人にしていきます。

「30代の平均的な女性」と言われても、なかなか顔は浮かびません。いろんな人をならして真ん中を取った、のっぺりした像だからです。でも「2駅先のマンションに住んでいて、2歳の子どもがいて、朝はいつもバタバタしていて、寝る前の10分だけが自分の時間」というところまで具体的にすると、急に顔が見えてきます。

平均に寄せるとぼやけて、一人に寄せるとくっきりする。ブランドの言葉が「いいことは書いてあるけれど、心に残らない」ものになるとき、たいてい平均に寄っています。

絞ると届かなくなる、は逆

一人にまで絞ったら、その他の大勢に届かなくなるのではないか。とても自然な不安だと思います。でも実際は、逆のことが起きます。

駅前に「皆さん、ぜひお立ち寄りください」と書かれた看板があっても、たぶん素通りします。自分に言われている気がしないからです。でも「仕事帰りに、少しだけ一人になりたいあなたへ」と書いてあれば、「あ、それ今の私かも」と足が止まる人がいる。

求人でも同じで、「やる気のある人募集」だと誰にも刺さらないけれど、「前の職場で、数字ばかりを追うのに疲れてしまった人へ」だと、「あ、私のことだ」と思う人が出てきます。一人に絞ることは、狭めることではなく、深く届かせるためのやり方です。

その一人は、実際の声から立ち上げる

ただし、この一人は頭の中だけで勝手につくるものではありません。実際にいるお客さんの顔や、話を聞かせてもらったときの言葉。そういう本物の欠片を持ち寄って組み立てていきます。

都合のいい理想のお客さんを空想でつくってしまうと、その人はたいてい現実には存在せず、言葉が上滑りする。ブランドの言葉がどこか他人事に聞こえるとき、原因はここにあることが多いです。

ペルソナは、迷ったときに立ち返る判断の基準

ブランディングのお手伝いをするとき、この一人を描くところに時間をかけます。ロゴをどうするか、どんな言葉を使うか、写真はどういう雰囲気にするか。決めていくときに、はっきりした一人の顔がないと判断がブレるからです。あれもいいな、これもいいな、で、だんだん八方美人になっていく。

でも「この一人だったら、こっちの言葉のほうが響くよね」と話せると、チーム全員が同じ方向を向きます。ペルソナは飾りではなく、迷ったときに立ち返る判断の基準です。正解を一つに決めるためというより、チームやお客様と一緒に同じ人を思い浮かべるために描いています。

そして、ターゲットがいらないわけではありません。地図がないままいきなり一人だけを見ると、その一人だけの偏った話になってしまう。地図があるから安心して一人に近づけるし、一人がいるから地図に体温が通ってくる。この二つは、セットで使うものです。

本音が出る打ち合わせは、担当者の機嫌から始まる

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こんにちは、中村です。住宅会社や工務店のブランディングをお手伝いしていると、「打ち合わせでお客様の本音が引き出せない」というご相談をいただくことがあります。今日は、ヒアリングシートやトーク台本の前に効いているもの、担当者の機嫌の話を書いてみます。

不安を口にできるかどうかは、その場の空気で決まる

家づくりは、多くの方にとって人生でいちばん大きな買い物です。予算のこと、家族の事情、親からの援助、住宅ローンへの不安。本当は相談したいのに、言い出しにくいことがたくさんあります。

そういう話が出てくるかどうかは、質問の仕方だけで決まるわけではありません。ピリピリした空気の中では、本音の話はなかなか出てこない。お客様が安心して、「こんなことを言ってもいいかな」というところまで話してくださる。実は、そこにいちばん大事なものが入っていることが多いんです。まだうまく言葉になっていない不安、ずっと引っかかっていた条件、家族の中でまだ整理できていない希望。それが出てくるかどうかで、その先の提案の深さが変わります。

そして、そういう場は、こちらの機嫌がいいところから生まれます。だから機嫌を整えることは、気持ちの問題ではなく、打ち合わせの準備のひとつです。図面や資料を用意するのと同じくらい実務的な準備だと思っています。

機嫌は、隠しても伝わってしまう

機嫌は表に出ます。自分では隠しているつもりでも、声のトーンや返事の短さで、相手には伝わってしまう。

お店に入って、店員さんがなんだか不機嫌そうだと、こちらも気を遣いますよね。頼みたかったことを頼みづらくなる。逆に、感じのいい人だと「もう一個聞いてみようかな」と思える。同じお店でも、受ける印象が随分変わります。

住宅の打ち合わせでも同じことが起きています。担当者の機嫌がよくないと、お客様は質問を一つ飲み込みます。その飲み込まれた質問が、あとで「やっぱり不安だから、他も見てみます」に変わっていく。決め手になるのは、性能の説明の巧拙よりも、「この人には何でも聞ける」と思えたかどうか、ということが少なくありません。

機嫌が悪いと、判断も雑になる

機嫌は、ただの気分の問題ではありません。機嫌が悪いと、まず判断が雑になります。イライラしているときは、細かいところを確認する気力がなかったり、一回で流してしまったりする。あとで見返して「なんでこんなミスを」ということが起きやすい。

住宅づくりは、決めごとの数がとても多い仕事です。仕様の確認漏れ、伝達のすれ違い、変更内容の共有忘れ。そういうことが起きやすいのは、忙しさそのものよりも、機嫌が下がったままの状態で判断を重ねているときかもしれません。

上に立つ人の機嫌は、会社の天気になる

もうひとつ。上に立つ人の機嫌は、思っている以上に下に伝わります。社長や上司が不機嫌だと、周りは顔色を伺って、思ったことを言いづらくなる。逆に機嫌がいいと、ちょっとした相談もしやすくなって、いい意見が集まってくる。

ここで止まっているのは、意欲ではなく情報です。現場で気づいた小さな違和感、お客様からの微妙なひと言、伝えにくい失敗。それが上に届かないと、小さく済んだはずのことが、あとから大きなクレームになって出てきます。立場が上になるほど、自分の機嫌が、周りにとっての天気みたいになってくる。社内の空気は、そのまま接客の空気になり、お客様に伝わっていきます。

気合ではなく、「戻し方」を持っておく

とはいえ、「常に上機嫌でいこう」と気合で解決する話ではありません。むしろ逆で、機嫌が下がったときに自分を戻す方法をいくつか持っておくほうが現実的です。

人は、機嫌が悪くなる原因のほうは、割とよく分かっています。寝不足、空腹、苦手な相手との時間。でも、何をすると自分の機嫌が戻るのか。そちら側は意外と知りません。少し歩くと落ち着く人、好きな音楽で切り替わる人、温かい飲み物を一杯入れる人、机の上を少し片付ける人。戻し方は人によって全然違います。まず、自分にとって「これをやると少し楽になる」をいくつか見つけておく。それが分かっていれば、落ちたときにずるずる引きずらずに済みます。

受け取り方にも幅があります。「ここ直しておいて」と言われたとき、ダメ出しされたと受け取れば一気に沈むけれど、ちゃんと見てもらえている、期待されていると受け取れば、同じ言葉でもそこまで落ち込まない。出来事そのものは変えられなくても、そこにどんな意味をつけるかは、少しだけ自分で選べます。

不機嫌の責任を、お客様や仲間に肩代わりさせない

第一歩は、気づくことです。「今、自分の機嫌が悪いな」と。当たり前のようでいて、これが難しい。イライラしているまさにそのときは、自分の状態に気づかないまま、周りのせいにしてしまいがちです。あの人のせい、この状況のせい、と。いったん「今下がっているな」と気づけると、それだけで少し冷静になれます。悪いのは相手ではなく、今日の自分の調子かもしれない、と一歩引ける。気づいて、戻し方をひとつ試す。この順番だけでも、現場の空気は変わります。

機嫌が下がること自体は、悪いことではありません。誰にでも虫の居所が悪い日はあります。ただ、その不機嫌を態度で表してしまうと、それが周りに移っていく。自分の機嫌を自分で取るというのは、我慢して笑顔を作ることではなく、自分の不機嫌の責任を、お客様や仲間に肩代わりさせないということだと思います。

いつも完璧に上機嫌でいる必要はありません。大事なのは、ゼロか百かではなく、下がったときに少しだけ戻せる自分でいること。打ち合わせの前に、ひと呼吸置いて自分の機嫌を確かめる。それだけで、お客様が話してくれることの量と深さが変わってきます。選ばれ続ける会社の差は、案外そういうところに出るのだと思います。