
ブランドは、変わってはいけないのか
ブランディングの相談で、よくうかがう不安があります。一度こう決めてしまうと、あとから変えられなくなるのではないか、というものです。
ぶれてはいけない、一貫していなければいけない。そう聞かされてきたぶん、決めること自体が、ずいぶん重いものになってしまっている。そういうご相談です。
結論から言うと、変わって構わないと思っています。一貫性というのは、最初に決めた一行を守り続けることではなくて、選んできたものが同じ側に傾いていることなのだと思います。
先に軸があって、そこから選んでいるわけではない
らしさというものが、会社の中に完成品として置いてあって、それに沿って日々を選んでいる。そう考えている方が、やはり多いです。
実際は、順番が逆のことがほとんどです。
あるのは、その時々の判断だけです。ここは請ける、ここは請けない。人を増やすか、今の人数で回すか。早く出すか、納得いくまで作るか。どれも目の前の事情に押されて決めたことで、理念から降りてきたものではありません。
ところが、それが何年も続くと、傾きが出ます。気づけば、だいたい同じ側を選んでいる。その傾きに、あとから名前を付けたものが、らしさなのだと思います。
だから、会議室に集まって考えても、なかなか出てきません。すでに傾きのほうはあって、名前が付いていないだけなのだと思います。
一貫性を、文言の固定と取り違えない
ここを取り違えると、少しおかしなことが起きてきます。
最初に決めた言葉を守ること自体が目的になって、事業のほうは動いているのに、文言だけがそこに残る。誰も本気で使っていない標語が、会社案内の先頭に置かれたままになる。こういうことは、読む側にもたいてい伝わってしまいます。
逆に、言葉を何度も入れ替えているのに、傾きは一度も変わっていない会社もあります。読み手が受け取っているのは文言ではなく、判断の癖のほうです。どちらを一貫と呼ぶかで、やることが変わります。
変わったことは、材料になる
創業のころは何でも受けていた。今は選んでいる。こういう変化を、軸がぶれていた期間として隠す会社は多いです。
もったいないと思います。何があって変えたのか、まで書けるなら、それは真似のできない材料になります。同じ言葉を並べることはできても、同じ経緯を持っている会社は、たぶんありません。
一度も変わっていない会社のほうが、おそらく少ないと思います。変わらなかった部分だけを集めようとすると、書けることが、急に減ってしまいます。
傾きは、こう取り出す
実際にやっていただいているのは、こういう順番です。
まず、この3年で迷ったうえで決めたことを5つ書き出します。社史に載るような話でなくて構いません。断った引き合いがある、扱いをひとつ減らした、募集の条件を変えた、外注をやめて自社でやることにした。その程度の粒がちょうどいいです。
次に、その横に理由を一行ずつ足します。ここが本番です。5つぶん並べると、たいてい同じ言葉が2回か3回出てきます。手が届く範囲、目で見て決める、急がない。会社ごとに違う言葉が出ます。
そこまで来たら、それが軸だと思っていいです。決める作業ではなく、取り出す作業になります。
この考え方でいくと、何が変わるか
まず、決めることの重さが変わってくると思います。
ブランドの言葉を決める場を、将来を縛る宣言だと考えると、誰も言い切れなくなります。これまでの選択に名前を付ける場だと考えると、事実の確認になるので、話が進みます。
そして、あとから変えても壊れません。名前のほうは、何度でも付け直せます。傾きは、日々の判断で書き換わっていきます。
ブランドは、決めた瞬間に完成して固まるものではないと思っています。選び続けているあいだ、ずっとつくられているものだと考えたほうが、実際に起きていることに近いです。



